1最新の疫学・東京都の流行状況
全国の患者数:前年同期比 約4倍に急増
国立健康危機管理研究機構(JIHS/旧NIID)の感染症発生動向調査によると、2026年は年初から麻疹の報告数が急増しており、5類感染症移行後で最大規模の流行となっています。
362例
2026年累計報告数(〜2026年4月22日時点)
+336%
前年同期比増加率(2025年同期は83例)
100例
第1〜10週累計(過去6年で最多)
出典:国立健康危機管理研究機構(JIHS)感染症発生動向調査 / The Japan Times 2026.4.22
東京都の流行状況:全国最多、新宿区で12年ぶり学年閉鎖
153例
東京都の累計報告数(全国最多・全国の約4割)
28歳
患者年齢中央値(範囲 1〜58歳)
B3型 79%
D8型 21%
検出された遺伝子型(海外輸入関連)
2026年2月、新宿区の飲食店で従業員9名(いずれも20代男性)の集団感染が発生し、4月には都内の小学校で12年ぶりとなる学年閉鎖が報告されました。患者の中心は20〜30代の成人で、1回接種世代(1990年4月2日〜2000年4月1日生まれ)・接種記録不確実世代に発症が集中しています。
- 東京都・全国ともに麻疹報告数は過去6年で最大ペースで推移。
- 感染源は海外渡航関連(B3/D8)。ベトナム・モロッコなどでの大規模流行と関連。
- WHO西太平洋地域全体で麻疹が再流行。日本も2015年に達成した「排除状態」の維持が再び危うくなっている。
- 渋谷区・新宿区は通勤・繁華街における人の往来が多く、感染拡大のリスクが高い地域。
最新の発生数は以下の公的機関で毎週更新されます。
2麻疹の病態・診断所見
麻疹ウイルスの特徴:世界最強クラスの感染力
麻疹はパラミクソウイルス科モルビリウイルス属の麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性疾患です。飛沫核(空気)感染・飛沫感染・接触感染のすべての経路で伝播し、ヒトに感染する病原体のなかで最も感染力が強いものの一つとされています。
R₀ 12〜18
基本再生産数(インフルエンザの約10倍)
90%以上
免疫がない人が感染者と接触した場合の発症率
空気感染
同じ空間にいるだけで感染。マスクのみでは予防困難
出典:CDC Pinkbook Measles Chapter / WHO Measles Fact Sheet 2024
臨床経過:3つの病期
| 病期 | 期間 | 主な症状・所見 |
|---|---|---|
| 潜伏期 | 10〜12日 | 無症状。曝露から発症まで通常2週間程度。 |
| カタル期 (発症〜発疹前) |
2〜4日 | 38℃前後の発熱、咳、鼻汁、結膜充血、羞明が現れます。後半に頬粘膜にコプリック斑が出現(診断的価値が極めて高い)。この時期が最もウイルス排出量が多く、最も感染力が強い。 |
| 発疹期 | 3〜4日 | いったん解熱しかけたあとに再び39〜40℃の高熱と特徴的な発疹が出現。発疹は耳介後部・頚部 → 顔面 → 体幹 → 四肢の順で広がる。 |
| 回復期 | 7〜9日 | 解熱し全身状態が改善。発疹は退色し褐色の色素沈着を残して消退。 |
出典:国立健康危機管理研究機構(旧NIID)麻疹Q&A / 厚生労働省 感染症情報
コプリック斑(Koplik spots)
コプリック斑は麻疹に特異的な所見で、診断的価値が極めて高いとされています。
- 出現時期:発疹出現の1〜2日前に出現し、発疹出現後2日以内に急速に消退
- 部位:頬粘膜(特に下顎臼歯対側の頬粘膜)
- 性状:周囲が赤い粘膜上にやや隆起した1〜2mm程度の白色斑点(「塩の粒をまいたよう」と形容される)
- カタル期の段階で口腔内をしっかり観察することが診断の決め手になります。
合併症:成人ほど重症化しやすい
麻疹は約30%が何らかの合併症を伴うとされる重症感染症です。成人罹患では小児よりも重症化しやすい傾向があります。
| 合併症 | 頻度・特徴 |
|---|---|
| 肺炎 | 麻疹関連死亡の最大要因。約6%。ウイルス性・二次性細菌性のいずれもあり得る。 |
| 中耳炎 | 約7〜9%。小児で多い。 |
| 麻疹後脳炎(急性脳炎) | 1,000例に1例。致死率10〜20%、生存例の約25%に神経学的後遺症。 |
| 亜急性硬化性全脳炎(SSPE) | 麻疹罹患後2〜10年の潜伏期を経て発症する遅発性中枢神経合併症。進行性に大脳機能を喪失してほぼ全例が死に至る難病(指定難病24)。2歳未満で罹患した場合に特にリスクが高い。 |
| 免疫健忘(immune amnesia) | 麻疹罹患後、それまでに獲得していた他の感染症への免疫記憶が一部消失する現象。罹患後数年は他の感染症にも罹りやすくなる。 |
出典:Mina MJ, et al. Science. 2019;366(6465):599-606 / MSDマニュアルプロフェッショナル版 / 難病情報センター SSPE
3検査と保健所への報告
🔬抗体検査の基準値・読み方・証明書発行はこちら
麻疹IgG抗体価(EIA法)の基準値(<2.0 / 2.0〜15.9 / ≧16.0)の読み方、ワクチン「空白世代」の生まれ年別判定、麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜ4疾患の比較、日本語・英文の抗体検査証明書の発行を詳しく解説しています。
→当院での対応:抗体検査(免疫の有無の確認)が可能です
当院では、麻疹に対する免疫がついているかどうかを確認する麻疹IgG抗体検査(EIA法/自費 5,000円)を実施しています。母子手帳が見つからない方、接種歴がはっきりしない方、海外渡航や就職を控えていてご自身の免疫を確認したい方などにご利用いただけます。
渋谷区にて、風しん抗体検査と同様の枠組みで麻疹抗体検査の公費助成が2026年10月1日から開始される見込みです(本ページ作成時点では渋谷区からの正式発表前のため、詳細は変更される可能性があります)。対象となる可能性があるのは、以下の①〜⑤をすべて満たす方です。
- ① 19歳以上で渋谷区に住民登録があり、次のいずれかに該当:1)妊娠を希望する女性 2)妊娠を希望する女性の同居者 3)妊婦の同居者
- ② 過去に麻疹の罹患歴がない
- ③ 過去に麻疹を含むワクチン(MRワクチンを含む)を2回以上接種したことがない
- ④ 過去に麻疹抗体検査を受けたことがない
- ⑤ 過去にこの助成を受けたことがない
①〜⑤をすべて満たす方が対象で、お一人につき1回のみ助成が受けられる制度となる見込みです。正式な開始・詳細条件は渋谷区の発表をご確認のうえ、当院受診時にもご相談ください。
麻疹は感染症法上の5類感染症(全数把握対象)で、診断した医師には保健所への発生届の提出が義務付けられています。麻疹ウイルスの遺伝子検査(PCR)や血清診断は、原則として保健所を通じた行政検査として、各自治体の地方衛生研究所等で実施される枠組みになっています。
麻疹が疑われる場合・感染者と接触した可能性がある場合の流れ
- 事前に必ずお電話またはLINEでご連絡ください。
麻疹は空気感染するため、待合室で他の患者さんに感染を広げてしまう危険があります。受診時刻・動線をご案内し、感染対策を講じたうえで診察します。 - 診察にて臨床所見(発熱・カタル症状・コプリック斑・発疹の経過)と曝露歴から麻疹が強く疑われた場合、感染症法に基づき直ちに保健所へ届出を行います。
- その後は保健所の指示のもとで、地方衛生研究所等によるPCR検査が実施されます。当院ではこのフローまでをサポートします。
- 結果判明までの間は、自宅待機・外出制限など、保健所からの指示に従ってお過ごしください。
参考:厚生労働省「医療機関での麻しん対応ガイドライン」 / 国立健康危機管理研究機構(旧NIID)麻疹病原体検出マニュアル第4版
麻疹疑いの方の連絡先:03-5485-3123 / LINEで連絡する
抗体検査・MRワクチン接種のご相談はこちら
4ワクチン接種の重要性
MRワクチンは最も有効性が確立されたワクチンの一つ
麻疹に対する特異的な抗ウイルス薬は存在しません。一度発症すれば対症療法しかなく、合併症を防ぐ唯一現実的な手段がワクチン接種による予防です。MR(麻しん風しん混合)ワクチンは現存するワクチンのなかでも最も有効性が確立されたものの一つです。
95%
1回接種で得られる麻疹免疫獲得率
97〜99%
2回接種で得られる麻疹免疫獲得率
95%以上
集団免疫の閾値(流行阻止に必要な接種率)
出典:日本環境感染学会 医療従事者のためのワクチンガイドライン第4版 / WHO Position Paper on Measles Vaccines 2017
特に追加接種を検討すべき方
| 対象 | 背景・推奨 |
|---|---|
| 1972年9月30日以前生まれ | 麻疹ワクチン未定期接種世代。多くは自然感染で免疫があるが、抗体価が低下している方は追加接種を検討。 |
| 1972年10月1日〜1990年4月1日生まれ | 麻疹ワクチン1回接種世代。1回のみでは2〜5%は免疫不十分。追加1回の接種を推奨。 |
| 1990年4月2日〜2000年4月1日生まれ | 今回の流行で最も患者の多い年齢層。追加接種を推奨。 |
| 2000年4月2日以降生まれ | MR1期(1歳)・2期(小学校入学前)の計2回接種が定期接種。母子手帳で接種歴を確認。 |
| 医療・介護・教育・保育・接客業 | 職業曝露リスクが高い。多くの施設で2回接種が要件化。 |
| 海外渡航予定の方 | 欧州・中東・東南アジア・アフリカでは依然として流行地域が多い。出発の4週間以上前の接種が望ましい。 |
| 妊娠を希望する女性とそのパートナー | 妊娠中は接種不可。妊娠前の確実な2回接種が必要。接種後2か月間は避妊が必要。 |
ご自身に麻疹の免疫がついているか不安な方は、まず麻疹IgG抗体検査(自費 5,000円・税込)で抗体価を確認していただくこともできます。検査ご希望の方は受診時にお申し付けください。
抗体検査・証明書発行の詳細については 抗体価の基準値・読み方・証明書発行ページ → もあわせてご覧ください。
5予約・接種費用・入荷状況
当院のMRワクチン入荷状況(2026年5月時点)
✓ 当院では常備在庫は持っておりませんが、事前のご予約をいただければ卸より入荷が可能です(通常1〜数営業日で入荷)。
✓ ご希望の方は、お電話・LINE・ネット予約からお早めにお申し込みください。
✓ 流行・供給状況によっては、お時間をいただいたり、定期接種を優先させていただく場合があります。
+ MRワクチンの供給を取り巻く全国的な状況(クリックで展開)
MRワクチンは国内3社(武田薬品工業/第一三共/一般財団法人阪大微生物病研究会)が製造しています。2024年11月以降、武田薬品のMRワクチンが力価低下の原因調査のため出荷停止となり、市場全体で供給がタイトな状況が続いています。
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 2024年11月 | 武田薬品MRワクチンの出荷が停止。第一三共・阪大微研の前倒し出荷で供給確保。 |
| 2026年3月 | 武田薬品より「乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン『タケダ』」出荷再開見込みのアナウンス。 |
| 2026年6月8日週 | 武田薬品MRワクチンが限定出荷で再開予定(特約店向け)。 |
| 2026年度全体 | 厚生労働省は「医療機関への納入量は例年と同等以上の見込み」と公表。全国的な不足は生じない方針。 |
出典:厚生労働省 ワクチン供給状況(事務連絡)/ 武田薬品工業 出荷再開見込み案内(2026.3)
接種費用・検査費用
| 項目 | 費用(税込) | 備考 |
|---|---|---|
| 麻疹IgG抗体検査(自費) | 5,000円 | 採血のみ。結果は3〜7日でメール/LINEご連絡可。 |
| MRワクチン接種(自費) | 8,000円 | 任意接種・成人の追加接種・海外渡航前接種など。 |
| MR定期接種1期(1歳)/2期(年長児) | 無料(公費) | 渋谷区・23区内在住で対象年齢の方。予診票をお持ちください。 |
*費用は予告なく変更することがあります。最新の価格は受付・電話でご確認ください。
麻疹患者の発生に伴い東京都が実施する接触者向けの臨時無償ワクチン接種については、対象となる方には保健所から直接ご連絡が入る仕組みになっています。当院から独自に無償でのワクチン接種を行うことはできませんのでご了承ください。保健所からの連絡があった方は、案内に記載された医療機関・会場にて接種をお受けください。
予約方法
- お電話:03-5485-3123(診療時間内)
- LINEまたはネット予約からも受け付けています。ネット予約は4営業日先からの受付となります。お急ぎの方はお電話またはLINEにてご相談ください。
- 当日持参するもの:本人確認書類(マイナ保険証など)、母子手帳(あれば)、定期接種の場合は予診票
- 詳しい予約方法は ワクチン予約ページ →
6よくある質問
Q. 接種歴がわかりません。どうすればよいですか?
A. 母子手帳が見つからない方は、抗体検査(自費 5,000円)または追加接種のいずれかをご検討ください。すでに抗体がある方が追加接種を受けても、安全性に問題はありません。
Q. ワクチンを打った後、すぐ免疫はつきますか?
A. MRワクチンは生ワクチンで、接種後約2週間で抗体が上昇します。海外渡航前接種は出発の4週間以上前が理想的です。
Q. 妊娠中ですが接種できますか?
A. 妊娠中はMRワクチンを接種できません(生ワクチンのため)。妊娠を希望する女性は、妊娠前に2回の接種を完了させ、接種後2か月間は避妊することが推奨されます。妊娠中で抗体価が低いとわかった場合は、ご出産後にできるだけ早く接種してください。
Q. 麻疹に罹った人と接触してしまいました。どうすればよいですか?
A. 曝露後でも72時間以内のワクチン接種または6日以内のガンマグロブリン投与で発症予防が期待できる場合があります。曝露の可能性があった場合は、まず電話でご連絡ください(来院前に動線を案内します)。東京都が実施する接触者向けの臨時ワクチン接種については、対象者に保健所から直接連絡が入ります。
Q. 副反応が心配です
A. MRワクチンの主な副反応は、接種部位の発赤・腫脹(10〜20%)、軽度の発熱(接種後5〜12日に約20%)、一過性の発疹(数%)などです。重篤な副反応はまれで、有効性が安全性を大きく上回ると考えられています。アナフィラキシーの頻度はおおむね100万回接種に1〜2回程度です。
Q. 抗体検査の結果はどれくらいで分かりますか?
A. 採血から3〜7日で結果が出ます。再診(結果説明)は無料で、メール・LINEでの結果ご連絡も可能です(水曜日を除く)。詳細は抗体検査の基準値・読み方ページをご覧ください。
*本ページの情報は2026年5月時点のものです。流行状況・ワクチン供給状況・接種推奨は変化することがあります。最新の公的情報(東京都感染症情報センター・JIHS・厚生労働省)もあわせてご確認ください。*個々の接種適否・治療方針については、必ず医師にご相談ください。
