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2026年5月11日、第一三共株式会社が開発した麻しん・おたふくかぜ・風しん混合ワクチン(MMRワクチン)「ミムリット®皮下注用」が、国内で製造販売承認を取得しました。日本でMMRワクチンが使用できるのは、実に約33年ぶりのことです。
一方で、現在国内では単独のおたふくかぜワクチンの供給が著しく不足しており、接種を希望しても受けられない状況が続いています。このコラムでは、おたふくかぜという病気の怖さをエビデンスとともに改めて見つめ直し、ミムリット承認の意義についてお伝えします。
おたふくかぜはムンプスウイルス(Paramyxovirus属)による感染症で、飛沫感染および接触感染によって広がります。感染力は強く、免疫のない人が感染者と接触した場合の発症率は高いとされています。
学齢前〜小学校低学年での罹患が多く、一般に経過は比較的軽症です。しかし「子どもの病気だから大丈夫」と油断は禁物です。小児でも重篤な合併症が起こりえます。
成人が罹患すると重症化しやすく、合併症の発症率も高くなる傾向があります。高熱や強い倦怠感が長引くほか、後述する精巣炎・卵巣炎・膵炎などのリスクも上昇します。「小さいころにかかったことがない」「ワクチンを1回しか打っていない」という成人の方は特に注意が必要です。
おたふくかぜで最も知っていただきたい合併症がムンプス難聴です。ムンプスウイルスが内耳(蝸牛)に感染することで、突発的に高度の難聴をきたします。
日本耳鼻咽喉科学会が2015〜2016年に実施した大規模全国調査では、わずか2年間で全国359例のムンプス難聴が確認され、そのうち95.5%が片側性の高度・重度難聴でした(厚生労働省研究班報告、2017年)。国内の年間ムンプス罹患者数はコロナ禍以前で40〜100万人規模と推計されており、毎年400〜1,000人程度が難聴を発症している可能性があります。
ワクチン接種後の難聴リスクと比較すると、自然感染による難聴は1,000人に1人であるのに対し、ワクチンによる難聴は100〜200万接種に1人とされており、ワクチンの圧倒的な安全性が示されています。
思春期以降の男性がおたふくかぜに罹患した場合、約20〜30%に精巣炎(睾丸炎)が発症するとされています。高熱・精巣の疼痛・腫脹が主な症状です。
精巣炎が重症化すると数ヵ月〜1年後に精巣の萎縮をきたすことがあり、両側に及んだ場合には無精子症(男性不妊)につながる可能性があります。ただし両側性は少なく、不妊に至るケースは限定的です。精巣炎は成人男性がおたふくかぜワクチンを受ける重要な動機のひとつです。
おたふくかぜ罹患者の1〜10%に無菌性髄膜炎が発症します(男性は女性の約3倍)。頭痛・嘔吐・発熱が主症状で、多くは数日で回復しますが、稀に脳炎に進展し重篤になることがあります。
| 合併症 | 発生頻度の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 卵巣炎 | 成人女性の約5% | 腹痛・発熱。不妊への影響は限定的とされる |
| 膵炎 | 約1〜4% | 腹痛・嘔気。重症化は稀 |
| 心筋炎 | 稀 | 重篤になることがある |
| 腎炎 | 稀 | 一過性のことが多い |
おたふくかぜワクチン(単独の生ワクチン)は、日本では任意接種(自費)として1歳・就学前の2回接種が推奨されてきました(定期接種には含まれていません)。
しかし2024年以降、国内で流通していた2種類のおたふくかぜワクチン(第一三共製・武田製)がいずれも品質基準の問題や製造上の課題により出荷制限・停止に追い込まれ、全国的に著しく品薄の状態が続いています。医療機関でも在庫が限られており、希望しても接種できないケースが増えています。
現在入荷待ちが続いていますが、ご希望の方は日数に余裕をもってご相談ください。
こうした状況の中、2026年5月11日に承認された「ミムリット®皮下注用」(第一三共株式会社)は、大きな希望となっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 種類 | 乾燥弱毒生麻しん・おたふくかぜ・風しん混合ワクチン(MMRワクチン) |
| 予防できる疾患 | 麻しん(はしか)・おたふくかぜ・風しん の3疾患 |
| 製造販売承認日 | 2026年5月11日 |
| 対象年齢 | 1歳以上(主に小児) |
| 接種方法 | 皮下注射 |
日本ではかつて1989年にMMRワクチンが定期接種として導入されましたが、接種後に無菌性髄膜炎を発症するケースが相次いだため、1993年にわずか4年で使用中止となりました。
今回のミムリットは、過去に問題となったウイルス株とは異なるムンプスウイルス株が使用されています。国内外での臨床試験において、無菌性髄膜炎の発生頻度は極めて低く抑えられており、安全性は大幅に改善されています。海外では同様のMMRワクチンが長年にわたり広く使用されており、その有効性と安全性は国際的にも確立されています。
日本小児科学会は、おたふくかぜワクチンを1歳と就学前(5〜6歳)の2回接種することを推奨しています(任意接種)。1回接種でも約8割以上に免疫がつくとされていますが、2回接種でより確実な免疫が得られます。
当院では、おたふくかぜを含む各種ワクチンの接種相談や抗体検査(自費)を行っています。在庫状況も含め、お気軽にご相談ください。
【記事監修】
東京慈恵会医科大学附属病院(糖尿病・内分泌・代謝内科、感染制御部、総合診療科)、大手航空会社常勤産業医などを経て、現職。総合内科専門の見地から地域診療に幅広く関わるほか、予防医学・感染症治療・小児科診療・漢方治療にも意欲的に取り組む。内分泌や肥満治療にも過去の経験を活かして関わっている。
参考資料
・厚生労働省研究班「2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査」(2017年)
・兵庫県小児科医会「おたふくかぜと難聴」調査報告
・第一三共株式会社 プレスリリース「乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン ミムリット® 製造販売承認取得のお知らせ」(2026年5月11日)
・日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会「おたふくかぜ(ムンプス)ワクチン接種の推奨」
・厚生労働省「ワクチンの供給状況について」
・ミクスOnline「新薬等15製品が承認へ 第一三共のMMRワクチン・ミムリットなど 薬事審・第二部会が了承」
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