1おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)とはどんな病気か
おたふくかぜはムンプスウイルス(Paramyxovirus属)による感染症で、飛沫感染および接触感染によって広がります。感染力は強く、免疫のない人が感染者と接触した場合の発症率は高いとされています。
典型的な経過
- 潜伏期間:約16〜18日(12〜25日程度の幅あり)
- 主症状:耳下腺・顎下腺・舌下腺の腫脹(片側または両側)、発熱、倦怠感
- 腫脹の持続:1〜2週間程度
- 排菌期間:腫脹出現の2〜3日前から腫脹後5日間程度
感染者の約30〜40%は症状を示さない「不顕性感染」といわれています。症状がないまま周囲に感染を広げることがあるため、「かかったことがないから免疫がある」とは限りません。ワクチン接種歴や抗体検査で自分の免疫状態を確認することが重要です。
小児の場合・成人の場合
小児では学齢前〜小学校低学年での罹患が多く、一般に経過は比較的軽症ですが、子どもでも重篤な合併症が起こりえます。成人が罹患すると重症化しやすく、高熱や強い倦怠感が長引くほか、精巣炎・卵巣炎・膵炎などのリスクも上昇します。「小さいころにかかったことがない」「ワクチンを1回しか打っていない」という成人の方は特に注意が必要です。
2怖い合併症―エビデンスで見るリスク
① ムンプス難聴(最も深刻な合併症)
おたふくかぜで最も知っていただきたい合併症がムンプス難聴です。ムンプスウイルスが内耳(蝸牛)に感染することで、突発的に高度の難聴をきたします。
- 発生頻度:約1,000人に1人(耳下腺腫脹患者における推計)
- 片側性が多く、突然かつ高度(重度)の難聴
- 現時点で有効な治療法はなく、ほぼ回復しない
- 自覚症状が乏しく、特に小児では気づかれにくい
日本耳鼻咽喉科学会が2015〜2016年に実施した大規模全国調査では、わずか2年間で全国359例のムンプス難聴が確認され、そのうち95.5%が片側性の高度・重度難聴でした。国内の年間ムンプス罹患者数はコロナ禍以前で40〜100万人規模と推計されており、毎年400〜1,000人程度が難聴を発症している可能性があります。
に1人
難聴発生頻度
万に1人
難聴リスク
難聴の割合
厚生労働省研究班報告(2017年)
② 精巣炎(成人男性のリスク)
思春期以降の男性がおたふくかぜに罹患した場合、約20〜30%に精巣炎(睾丸炎)が発症するとされています。高熱・精巣の疼痛・腫脹が主な症状です。精巣炎が重症化すると数ヵ月〜1年後に精巣の萎縮をきたすことがあり、両側に及んだ場合には無精子症(男性不妊)につながる可能性があります。
③ 無菌性髄膜炎・脳炎
おたふくかぜ罹患者の1〜10%に無菌性髄膜炎が発症します(男性は女性の約3倍)。頭痛・嘔吐・発熱が主症状で、多くは数日で回復しますが、稀に脳炎に進展し重篤になることがあります。
④ その他の合併症
| 合併症 | 発生頻度の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 卵巣炎 | 成人女性の約5% | 腹痛・発熱。不妊への影響は限定的とされる |
| 膵炎 | 約1〜4% | 腹痛・嘔気。重症化は稀 |
| 心筋炎 | 稀 | 重篤になることがある |
| 腎炎 | 稀 | 一過性のことが多い |
3おたふくかぜワクチンの現状―深刻な品薄
おたふくかぜワクチン(単独の生ワクチン)は、日本では任意接種(自費)として1歳・就学前の2回接種が推奨されてきました(定期接種には含まれていません)。
しかし2024年以降、国内で流通していた2種類のおたふくかぜワクチン(第一三共製・武田製)がいずれも品質基準の問題や製造上の課題により出荷制限・停止に追い込まれ、全国的に著しく品薄の状態が続いています。
- 第一三共製おたふくかぜワクチン:品質基準を満たさないとして新規供給停止中
- 武田製おたふくかぜワクチン:出荷制限が継続、在庫は極めて限定的
- 供給再開の見通しは依然不透明
現在入荷待ちが続いていますが、ご希望の方は日数に余裕をもってご相談ください。
433年ぶりの復活―MMRワクチン「ミムリット」とは
こうした状況の中、2026年5月11日に承認された「ミムリット®皮下注用」(第一三共株式会社)は、大きな希望となっています。
ミムリットの概要
| 種類 | 乾燥弱毒生麻しん・おたふくかぜ・風しん混合ワクチン(MMRワクチン) |
|---|---|
| 予防できる疾患 | 麻しん(はしか)・おたふくかぜ・風しん の3疾患 |
| 製造販売承認日 | 2026年5月11日 |
| 対象年齢 | 1歳以上(主に小児) |
| 接種方法 | 皮下注射 |
なぜ33年ぶり?―過去のMMRワクチンとの違い
日本ではかつて1989年にMMRワクチンが定期接種として導入されましたが、接種後に無菌性髄膜炎を発症するケースが相次いだため、1993年にわずか4年で使用中止となりました。
今回のミムリットは、過去に問題となったウイルス株とは異なるムンプスウイルス株が使用されています。国内外での臨床試験において、無菌性髄膜炎の発生頻度は極めて低く抑えられており、安全性は大幅に改善されています。海外では同様のMMRワクチンが長年にわたり広く使用されており、その有効性と安全性は国際的にも確立されています。
- 1回の接種で麻しん・おたふくかぜ・風しんの3つを同時に予防
- 単独のおたふくかぜワクチンが品薄の中、おたふくかぜへの対策手段が広がる
- 現在の定期接種(MRワクチン)との組み合わせや、今後の接種体制の整備が期待される
- 将来的な定期接種化(公費接種)への道が開かれた
2026年5月現在、ミムリットは製造販売承認を取得しましたが、定期接種(公費負担)への組み込みはまだ決定していません。定期接種化されれば費用負担なく接種できるようになりますが、時期については今後の厚生労働省・専門委員会の審議を待つ必要があります。最新情報が出たらまたお知らせします。
5予防のために、今できること
接種推奨スケジュール(学会指針)
日本小児科学会は、おたふくかぜワクチンを1歳と就学前(5〜6歳)の2回接種することを推奨しています(任意接種)。1回接種でも約8割以上に免疫がつくとされていますが、2回接種でより確実な免疫が得られます。
こんな方はワクチン接種を検討しましょう
- おたふくかぜにかかったことがないお子さん(1歳以上)
- ワクチンを1回しか打っていないお子さん・成人の方
- 接種歴が不明な成人の方
- 乳幼児や妊婦(風しんにも注意)と接する機会が多い方
- 医療従事者・保育士・学校関係者などで免疫が未確認の方
「かかったことがあるかわからない」「ワクチンを打った記憶がない」という成人の方には、血液検査でおたふくかぜ(ムンプス)の抗体価を確認することができます。当院では自費診療で抗体検査に対応しています。抗体が低い場合はワクチン接種をご検討ください。
まとめ
✓ おたふくかぜは「子どもの軽い病気」ではなく、難聴(約1,000人に1人)・精巣炎(成人男性の20〜30%)など重篤な合併症を引き起こす感染症です。
✓ 現在、単独のおたふくかぜワクチンは全国的に品薄の状況が続いています。
✓ 2026年5月、MMRワクチン「ミムリット」が約33年ぶりに承認されました。
✓ 接種歴・罹患歴が不明な方は、自費の抗体検査でご自身の免疫状態を確認することをお勧めします。
✓ ワクチンによる難聴リスクは自然感染の1,000〜2,000分の1です。
抗体検査・ワクチン接種についてご相談ください
参考:厚生労働省研究班「2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査」(2017年)/ 兵庫県小児科医会「おたふくかぜと難聴」調査報告 / 第一三共株式会社プレスリリース(2026年5月11日)/ 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会 / 厚生労働省「ワクチンの供給状況について」
