1ADA/EASD 2026が示す「糖尿病ケアの基本」
欧米の糖尿病学会が数年ごとにまとめる共同声明は、世界の糖尿病診療に大きな影響を与えます。2026年版で強調されているのは、血糖値を下げることだけを目標にするのではなく、合併症を防ぎ、生活の質(QOL)を保つために、生活全体を支えるという考え方です。
- 一人ひとりの生活・価値観に合わせた「患者さん中心」の目標設定と、その定期的な見直し
- 健康的な生活習慣(食事・身体活動・睡眠・禁煙)を治療の土台に
- 体重管理と、気持ちの面(こころ)のサポート
- 必要に応じて早めに薬物療法を組み合わせる(薬の選択は医師が個別に判断します)
*本レポートは欧米の医療者向けにまとめられたものです。当院では日本糖尿病学会の診療ガイドラインもふまえ、日本人の体質や食文化に合わせてご案内しています。
2目標の立て方 ―「SMART」な目標を
「やせる」「甘いものを控える」といった漠然とした目標は続きにくいものです。レポートでは、目標をSMART(具体的・測定できる・達成できる・現実的・期限がある)に設定することが勧められています。
| SMART | 意味 | 目標の例 |
|---|---|---|
| Specific | 具体的 | 「夕食後に15分歩く」 |
| Measurable | 測定できる | 歩数計やスマホで1日の歩数を記録する |
| Achievable | 達成できる | 今の歩数+1,000歩から始める |
| Realistic / Relevant | 現実的・自分に合っている | 仕事の日でもできる内容にする |
| Time-limited | 期限がある | 「次の受診(1か月後)まで」 |
受診のたびに、うまくいったこと・難しかったことを一緒に振り返り、目標を少しずつ調整していきます。
3食事療法 ―「量」と「質」の両方が大切
レポートでは、食事療法の中心は食べる量(摂取エネルギー)を適切に減らすことと、食事の質を高めることの両方だとされています。
- 「誰にでも最適な栄養バランス」は存在しない:炭水化物・たんぱく質・脂質の理想の比率は一つに決まっておらず、体質・好み・生活に合わせて個別に考えます。
- 続けられることが最優先:短期間だけの極端な方法より、長く続けられる健康的な食習慣が目標です。
- 量と質の両方:野菜・魚・豆類・未精製の穀物などを増やし、加工食品や甘い飲み物を減らすことが大切です。
- サプリメントは血糖管理のためには勧められていません。
効果が期待できる食事パターン
体重減少につながりやすい健康的な食事の例として、次のようなものが挙げられています。どれか一つが正解というわけではなく、ご自身に合うものを選ぶことが大切です。
| 食事パターン | 特徴 |
|---|---|
| 地中海食 | 野菜・果物・魚・豆類・ナッツ・オリーブオイルが中心。心血管疾患のある方にも勧められる食事です。 |
| 低炭水化物食・中等度の炭水化物制限 | 主食や甘いものを控えめにする方法。短期間(数か月)の血糖・体重の改善に役立つ一方、極端な制限を長く続けることは勧められていません(下記参照)。 |
| 低GI食 | 血糖値が上がりにくい食品(玄米・全粒粉・豆類など)を選ぶ方法。 |
| エネルギー制限食 | 1日の食べる量そのものを控えめにする方法。 |
日本の食卓で取り入れやすい工夫
- 食べる順番を野菜 → たんぱく質(肉・魚・卵・大豆)→ ごはんにする
- よく噛んで、ゆっくり食べる
- ジュース・清涼飲料水・甘い缶コーヒーを、水やお茶に置き換える
- 主食は「抜く」より「適量にする」。白米に雑穀や玄米を混ぜるのも一つの方法
- 夜遅い時間の食事・間食を控える
4GI値(グリセミック・インデックス)とは ― 血糖値が上がりにくい食品の選び方
GI値は、食品ごとの「食後の血糖値の上がりやすさ」を表す目安です。同じ炭水化物でも、GI値が高い食品ほど食後の血糖値が急に上がりやすく、低い食品ほどゆるやかに上がります。
| 種類 | 血糖値が上がりにくい (低GI) | 中くらい | 上がりやすい (高GI) |
|---|---|---|---|
| ごはん類 | — | 玄米・雑穀米・麦ごはん | 白米・おかゆ・もち |
| 麺類 | パスタ(スパゲッティ) | 日本そば・中華麺 | うどん・そうめん・ビーフン |
| パン類 | ライ麦パン | 全粒粉パン | 食パン・フランスパン・菓子パン |
| 肉・魚・卵・大豆 | 肉・魚・卵・豆腐・納豆 (糖質をほとんど含まず、血糖値をほとんど上げません) | — | — |
| 野菜・その他 | 葉物野菜・きのこ・海藻・牛乳・ヨーグルト(無糖) | さつまいも・かぼちゃ | じゃがいも・砂糖の多いお菓子・ジュース |
- GIが低くても、食べる量が多ければ血糖値は上がります。「低GI=たくさん食べてよい」ではありません。
- 肉・魚・卵は血糖値をほとんど上げませんが、脂の多い部位や加工肉(ハム・ソーセージ)のとりすぎ、塩分には注意しましょう。
- 同じ食品でも、調理法(やわらかく煮る・つぶす)や食べ合わせでGIは変わります。野菜やたんぱく質と一緒に食べる、野菜から先に食べると、血糖値の上昇がゆるやかになります。
*GI値は測定方法や研究によって差があるため、表は目安としての分類です。玄米や全粒粉パンは、白米・食パンと比べて「上がりにくい」食品として取り入れやすい選択肢です。
5糖質制限(低糖質ダイエット)はおすすめ?
主食や甘いものを控える糖質制限は、始めてから数か月ほどは血糖値や体重が下がりやすく、短期的には効果があります。2026年の国際コンセンサスでも、肥満を伴う2型糖尿病の方の血糖・体重管理に「短期間は有用」とされています。一方で、次のような理由から、極端な糖質制限を長く続けることは勧められていません。
- 長期では差がなくなりやすい:1年以上の長い期間でみると、ほかの食事法との効果の差は小さくなります。
- 続けにくい:主食を大きく減らす食事は、外食や家族との食事で無理が出やすく、リバウンドにつながることがあります。
- 長期的な安全性が確かめられていない:主食をほとんど抜くような極端な制限は、長く続けたときの安全性が十分にわかっておらず、日本糖尿病学会も勧めていません。脂質の多い食事に偏ると、LDL(悪玉)コレステロールが上がる方もいます。
- 栄養のかたより:食物繊維やビタミン・ミネラルが不足しやすくなります。
当院では、主食を「抜く」のではなく、「適量にする」「低GIのものを選ぶ」「食べる順番を工夫する」といった、無理なく続けられる方法をおすすめしています。
強い糖質制限やケトン食、断食などは、服用中のお薬によっては低血糖やケトアシドーシス(特にSGLT2阻害薬)の原因になることがあります。また腎臓の働きが低下している方は、たんぱく質の量に注意が必要です。食事の方法を大きく変えるときは、必ず事前に医師にご相談ください。
6体重減少と「寛解」
肥満を伴う2型糖尿病では、体重を減らすことが血糖の改善に直結します。レポートでは、体重の10〜15%を減らすことを目標にした、しっかりした生活習慣改善プログラムにより、2型糖尿病が「寛解」(お薬なしでも血糖値が正常に近い状態が続くこと)に至る可能性があるとしています。
体重減少の目安
最初のステップ
筋肉は落とさない
たとえば体重80kgの方なら、8〜12kgの減量が寛解の目安になります。いきなり大きな目標を目指すより、まずは5%程度の減量から始めるだけでも、血糖・血圧・脂質の改善が期待できます。
また、大きく体重を減らすときは筋肉量や体力の低下に注意が必要です。たんぱく質をしっかりとり、筋力トレーニングを組み合わせることが勧められています(次の「5S」も参照)。
*寛解の可能性は、糖尿病になってからの年数やすい臓の働きなどにより個人差があります。寛解後も定期的な検査は続けることが大切です。
7運動療法 ― 合言葉は「5S」
2026年版では、1日24時間の過ごし方全体を見直すための合言葉として「5S」が紹介されています。激しい運動だけでなく、座りっぱなしを減らすことや睡眠まで含めているのが特徴です。
| 5S | 内容 | 日常での取り入れ方の例 |
|---|---|---|
| Standing 立つ | 座っている時間を減らし、立っている時間を増やす | 30分に1回は立ち上がる、電話は立って受ける |
| Stepping 歩く | 歩数を増やす | ひと駅歩く、エレベーターより階段、食後の散歩 |
| Sweating 汗をかく | 軽く汗ばむ程度の有酸素運動を取り入れる | 早歩き・自転車・水泳など。会話ができる程度の強さで |
| Strengthening 筋肉を鍛える | 筋力トレーニング(レジスタンス運動)を取り入れる | スクワット・かかと上げ・腕立て伏せなどを週2〜3回 |
| Sleep 眠る | 睡眠の量・質・タイミングを整える | 毎日ほぼ同じ時間に寝起きする、寝る前のスマホを控える |
体の状態に合わせて、無理のない量から少しずつ増やしていくことが大切です。日本糖尿病学会でも、週150分以上の有酸素運動と週2〜3回の筋力トレーニングが目安とされています。
心臓病・網膜症・腎症・足の病気(神経障害)などの合併症がある方、フレイル(体力の衰え)のある方は、運動の種類や強さに注意が必要です。インスリンや一部の飲み薬を使っている方は、運動中・運動後の低血糖にも気をつけましょう。
8睡眠・禁煙・こころのケアも治療の一部
- 睡眠:睡眠不足や不規則な睡眠は、血糖値や食欲に悪影響を与えます。いびきや日中の強い眠気がある方は、睡眠時無呼吸症候群が隠れていることもあります。
- 禁煙:喫煙は心筋梗塞・脳卒中・腎臓病など糖尿病の合併症のリスクを大きく高めます。
- こころのケア:糖尿病と長く付き合う中で、気持ちが疲れてしまうこと(糖尿病の負担感)は珍しくありません。不安やつらさも遠慮なくお話しください。
9当院でのサポート
しおざき内科では、糖尿病専門医が一人ひとりの生活に合わせて、無理なく続けられる食事・運動の工夫を一緒に考えます。
- 受診ごとに目標を振り返り、HbA1c・体重・検査結果をもとに調整
- 持続血糖モニター(FreeStyleリブレ2)で、どの食事で血糖が上がりやすいかを「見える化」
- 食事・運動だけで目標に届かない場合は、お薬の追加・変更を検討
- 睡眠時無呼吸症候群の検査・治療にも対応
糖尿病・代謝内科(保険診療)
検査・診断基準、薬物療法、合併症の管理、費用・受診の流れなど、当院の糖尿病診療全体をご案内しています。
→参考文献:Davies MJ, et al. Management of Type 2 Diabetes, 2026. A Consensus Report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD). Diabetes Care. 2026;49:1-45./日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン」
10アクセス・診療時間
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